ピーター・ヴォーコス作品の穴窯焼成

ピーター・カラス氏の信楽陶芸の森での穴窯焼成

Plan of Anagama at Tougei no Mori

今年度(1995年度)も多くの陶芸家の方を陶芸の森では招待し作品の制作に当たっていただいた。一番印象に残ったのは何といっても昨年春(1995年)に来館したピーター・ヴォーコス氏であろう。助手のピータ・カラス氏を伴って来館、精力的にプレートを制作した。この時に制作された作品の穴窯による焼成が助手のピーター・カラス氏によって10月から11月にかけて行われた。ここでは、カラス氏による穴窯焼成を紙上にて再現してみたい。

Callas Loading The Kiln まず、穴窯の一番奥に棚が組まれ小物が詰められる。そして両脇に直径60センチ余りのプレートが障子レンガに立てかけられるようにして置かれる。この数、12枚。そして中央には、高さ110センチ余りのスタックが首の方を手前に寝かされる。通常棚組みがされる中央部手前は、薪が投入できるよう空けてある。作品が大きいため窯詰めそのものはそれ程時間が掛からない。

窯詰めが終わり、窯の口をレンガで閉じたのだが、薪の投入部分はいつもなら、耐火レンガで閉じるところをステンレスの板で閉じた。煉瓦を動かして投入口の開け締めをするよりもステンレス板を使用するほうが手際良く行えるためである。還元炎で焼成するため、頻繁に薪を投入せねばならず、この方法は理にかなっているといえる。

今回の焼成は、4日半ほどかける予定で、燃料には松割木200束、雑木(クヌギ・カシなど)50束を用意した。(束とは、薪の束の単位のこと。信楽では、直径約40センチ、長さ約40センチが標準である。)窯の焚き始めを灯油で焚く場合もあるのだが、今回は始めから薪を使った。

今回、主作品となっているプレートは素焼きをしていないので、ゆっくりと温度を上げていかねばならない。生の作品に炎が直接触れると割れる危険性があるため、最初は焚き口を煉瓦で手前に延ばして炎が窯の中に入らないようにした。この状態で焼成することを「あぶり」というが、今回の場合約20時間かけてゆっくりとあぶっていった。窯の温度が300度ぐらいに達し、十分に温まったら、「あぶり」の段階を終わり、手前に延ばした部分を取り去り焚き口から直接薪を投入していく。

ここからは、1250度を目安に温度を上げていく。しかし還元焼成で温度を上げていくのは必ずしも容易ではない。ヴォーコスの作品の特徴である、あの「こげた」土の表情は、かなりきつい還元焼成の結果である。陶芸の森の穴窯で還元をかけるには、焚き口の下にある二次空気穴をしぼるか、煙突の下にあるエアーダンパーを開けるかのいずれかの方法がある。しかし、還元をかけすぎると窯の中の酸素が足りなくなり、これを「窯の息がつまって」ともいうが、温度が上がりにくくなる。カラス氏は温度計を見ながら、微妙に窯の雰囲気を調整していく。

薪の窯を還元で焚くと燃料が完全燃焼せず、窯の中にオキがたまる。やがてオキの山がかたまり、作品はオキに埋もれて焼かれる状態となる。その痕跡が作品の景色となるのである。というわけで、ヴォーコス氏の作品の表面の景色はこのオキによるところが大きい。カラス氏はプレートを一枚一枚窯詰めする段階からこのオキによる効果を計算しているのである。

陶芸の森で通常穴窯を焚く場合、割木をさらに細かく割ることはしない。ただし、今回の焼成では薪を燃えやすくし、還元をかけるために細い薪を使う必要があった。このため、割り木を割る作業が焼成中も窯の脇で続けられた。頻繁に薪をくべ、そしてオキをためていくのである。窯の雰囲気、温度にも気を配っておかなければならない。この段階で大切なのは、薪をくべるリズムをつかむことである。このリズムがスムーズに温度を上昇させていくためには欠かせない。温度は、パイロメーター(記録式温度計)に刻々と記録されていくのだが、パイロメーターのグラフに記録されるパターンは小刻みな山型を描きながら上昇していく。山型の頂点から温度が少し下がったときが、薪を投入するタイミングである。薪をくべるとまた小刻みな上昇が始まる。この作業を繰り返し行うことになるのだが、この間8分から10分、これが何時間も続くのだから大変である。

焚き始めから、50時間程で温度は1200度に上がった。この後、1200度から1250度の間を50時間維持し、そして焼成も最後の段階を迎える。

用意した薪も数少なくなってきたころ、カラスは、小割りにされた薪を、窯の中が薪で一杯になるまで…50本あまり焚き口から投入する。煙突からは炎が吹き上げなかなか見応えのある光景であった。この薪が燃えきるのに40分あまりかかった。炎が収まったころ、焚き口を煉瓦で閉じダンパーを閉める。焚き始めから100時間であった。

5日後、行われた窯出しの結果は関わった者全員を満足させられるものであった。

原稿記述 陶芸の森嘱託員 ダレン・ダモンテ



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